フォントの品質と用途のレベル分け

MS(P)ゴシックの話が出たこともあり、nukamisoフォントの製作についていつか書こうと思ってた、一部分だけ今、書いてみる。
作業メモとか考えた事とか(インターネットアーカイブ)
http://classic-web.archive.org/web/20070216064726/http://khdd.net/kanou/kangae/2005/Apr.html


当時のことはリアルタイムでは知らなくて、問題*1が一段落した後に私は知りました。
私が自分でフォントを作り始めたころは、今のように無料で使える商用並みの日本語フォントは非常に少なかった。
今はスマートフォンでよく見かける、モトヤLマルベリも無かったはずです。当時あったのは、和田研フォントくらいだったか。丸ゴシックは。

話が脱線したか。ええと、上記のページから、一部引用(というか引用の引用)。


Level 1
個人がデスクトップ内の使用に耐えられる(メールやブラウザや印刷プレビューで問題がない)
Level 2
先輩に提出しても失礼がない(グループワークの輪講会やプレゼンに耐えられる)
Level 3
上司に提出しても失礼がない(社内文書に適用できる)
Level 4
お客様に提出しても失礼がない(名詞や、お客向けのちょっとした案内書など)
Level 5
出版にも耐えられる(ライターや小説家が、自分の作品をはべらせるフォントとして耐えうる)

基本的には引用元を読んでから判断してもらいたいけど、これ読んで異論がない人なら先に進んでも大丈夫かな。疑問があるなら当時の背景を調べてから、がおすすめ。

nukamisoを作る前にこれを見て、「ああ、フォントの業界でも、最高品質でなくても価値を認めてもらえるかもしれないな」と思えて、だいぶ安心したのを覚えてる。


これらのレベルがあることを認めるとして、あるフォントに個人個人が不満を持つ持たないの問題の視点から見れば、その閾値は違ってくる。人によってはデスクトップ用途でも常に出版並みの品質が無ければ耐えられない、という人もいるだろうし、逆に出版などの仕事でもお金をかけるのはいやだという人もいる。
こういうバラつきがある、というのは誰もが知っていることだし、そのうえで話をしてます。少なくとも私の場合は。
閾値に個人差があることは承知の上で、たとえばそれぞれのコストやら技術的な問題やらを考慮したうえで、フォントは評価をしてかなきゃなんない。ある個人製作の趣味のフォントが出版に使えないから駄目だという評価をしても、無益。逆に、フォントを作る専門の会社が業務用として販売してるフォントが、出版に使えない品質ではいけない。

先日のMSPゴシックなら、どれくらいだろうか。あれはもともと出版用ではない、というか、フォント単体で10万円出してもいないし、出版用途を求めるのは違う。同様にそれは、商業用で作ってるWebページに使うときも同じ。商用の品質を求めてるのなら。
MSフォントに求める用途は、一般的な家庭用とオフィス用途、上の表ならレベル3までだとするのが、大筋で無難な合意が得られる線だと思う。レベル4と5なら、別に適したフォントを買ってください、ということじゃなかろうか。*2




私は、特にMSフォントが現代のデザイン仕事に使えるかよりも、フォントが無料で手に入る、無料のフォントが高品質で出版に使えることを要求される、それは非常に「普通じゃないこと」であることのほうを、まず知ってほしいというか。*3


「無料か安価で手に入る」フォントがあるとしたら、それはあなたの手書き文字だけ。ゴシックや明朝は、技術を持った人が仕事で作った商品。フォントを使うデザイナーさんがデザインした作品と同じ、商品。


これはMSゴシックの話とは違う話題だけれど、なんか、個人製作の価値というものも、必要もなく否定されてしまってる気もしてる。
無料で良いフォントを使えるのが当たり前だ、という考え方が広まりすぎれば、アマチュアが趣味だからと無料配布しようと、プロが業務上の戦略で無料配布しようと、フリーフォントを使うだけの「お客様」にとっては無料フォントは同じもの、になってしまう。高品質なGoogleとかモトヤとかがあれば他はいらないんじゃね? みたいな考え方は、既に広まってしまってる気はしてる。それは上記の引用元でも書かれてること、ではあるけれど*4


私のフォントつくりの場合は、まず楽しみでやってます。nukamisoの場合は「一部の専用用途のレベル1」を想定して作ってる。それ以上の用途は、想定外です。nukamisoはCSSの付属品であり、オマケだ。
作品を作る目的も、その作品を評価する軸も、一つでなくてもいいんじゃないだろうか。MSゴシックにしたって、適切な評価軸があるべきだと思う。そういうのがもっと許容されていかないと、今後がないというか。



たぶん今度はブックマークされない、よな。いきなり反応多くて大変だった……。

*1:東風フォントの問題

*2:高品質な商用フォントをOSに最初っから入れられても、OSに大幅に上乗せされてお金かかるのは困るのだし。仮にプロ用OSを作るとしても、何にでも使える高品質なフォントを一つだけ入れる、なんて不可能。なに入れても不満言う人はいるんじゃないだろうか。

*3:MSフォント個別の問題には、あんまり強い興味はないです。MSフォントに要求する人たちの意識には少し興味ありますけど。

*4:IPAあればさざなみいらないじゃん、のあたり。