アマのフリーフォントの価値を労働時間で語ることについてとか

【#モリトーク】第115話:無保証が基本であること - 窓の杜
【#モリトーク】第94話:作者の努力を知る手書きフォント - 窓の杜
フリーフォントの価値について、その作業量の多さや作者の善意について言及することはよくあって、このモリトークもその一例、だと思う。
一応、私も漢字がそこそこ収録されてるフォントの作者の一人としては、フリーフォント一般を大事にしてもらえるのはありがたいのだけれど*1、でも、モヤモヤするところはあって。


(収録文字数)=(労働力)ではない

いつか「ぬかみそフォントができるまで」を書きたい、と思いつつ何年も手付かず。これはその話の一部ですけどね。以前、こんなもん作りました。

「隣の世界」というフォント。これはそのライセンス文書を、「隣の世界」で表示したもの。
これも一応、手書きフォントの一種。制作にあたっては、こんなん書きました。

残ってた原稿ひっぱり出した。こんな感じでサインペンで手書きして、フラットベッドスキャナで読み込み、一文字ずつビットマップ画像化して、TTEditでフォント化してます。
見て分かるように、統一感ゼロです。「月」「日」なんかふざけてます。しかしこんなフォントでも、「マリオアーティストに収録されているほぼ全ての文字」を収録しておるのですわ。だいたいJIS第一水準。

「隣の世界」は「ぬかみそフォント」の原型です。詳細は省くとして、制作目的は主に二点。一点目はフォント作りの物量を体験するため。二点目は、「ぬかみそフォント」のデザインが既存のフォントの劣化コピーになる危険を減らすため。

「隣の世界」のデータは「ぬかみそフォント」の中には残ってないし、「隣の世界」自体に価値はない。少なくとも、デザインの統一性を求められるフォントプログラムとしては、ただのゴミです。ゴミなのだけれど、JIS第一水準を作るのに最低限必要な時間と苦労はしている。

こんなゴミフォントでも、フォントのユーザさんは、「フォント作者が膨大な手間をかけて作ったフォントだから」作品を大事にしなきゃなんない、のだろうか。
「文字数」って、「フォントデザイナーが個々のフォントの品質を高くする努力をしていること」や「デザイナーがフォントデザイン能力を得るためにしてきた勉強と時間とお金」よりも、そんなに注目しなきゃならないこと?

(収録文字数)は(トータルで必要な労働力)を決める大事な要素のひとつ

マチュアフリーフォントの制作に必要とされる労力が、漢字数の多さと関係していること、は、もちろん否定しないです。しかし、単純に数が多ければ時間が掛かり、文字数が少なければ手軽だ、ということでもない。労力は結局、色んな要素の兼ね合いで決まってる。だからまず当然のことだけど、文字数が少ないフォントなら簡単に作れる、などということは絶対にないのは確かです。
JIS第一水準をカバーしている「隣の世界」は、確か1日あたり200文字くらいだったはずだが、「ぬかみそフォント」に収録している平仮名のほうが、もっと遥かに手間かけてます。漢字3000文字より、平仮名のほうが苦労してるんすよ。nukamisoのように「Narrはデザイナーさんのフォントには品質で絶対に勝てない。だから私はネタと数で勝負だぜ!」のフォントでさえ。

労力を制作文字数で語ることの表と裏

だらだら前置きが長いけれど、要するに、フォント作りを尊重しようとしてくれるのはありがたいんすよ。ありがたいのだけれど、それをフォントの文字数や作者の善意で語ろうとするのは、悪手なのではないかということ。

英数字のフォントなら数字とアルファベットで足りるが、日本語フォントは7000文字も必要だから大変、だというなら、アルファベットは簡単で楽だとでもいうのだろうか。
「善意」で無償公開している「フリーフォント」の作者には感謝すべきだが、「利潤」を目的としてフォントを販売している商用フォントの作者に感謝する必要はない、とでもいうのだろうか。
訓練も勉強もしていないアマチュア中のアマチュアが三年間かけて日本語フォントを作るのはすごい苦労だが、学校で三年間もデザインの勉強をした人が一週間で作ったフォントは手軽であると?

フォント作りを軽視する人に対しての説得力はないし、あったとしても

フォント作りの大変さを強調して語ろうとする動機が、たとえばフリーフォント作者に無茶な要求をするユーザさんたちへの憤慨、であるとか。フォントや書に対しての無理解や侮辱への怒り、だとか……そういうものがあるとすれば、(前者については申し訳ないけど私個人はそれほど無茶な要求されたことがないので置くとして、)少なくとも後者については良く分かる。
しかし、人の話を聞かん人は、何を言っても聞かんでしょう。
いや、仮にたとえば、無茶な要求をしていたユーザさんが反省してくれたとしてもですね。そのために、「膨大な漢字を作る労力」や「作者の善意」を持ち出すのは、それが裏返されたときの問題を考えれば、良いとは思えない。たとえ「0123456789」だけの数字フォントだけでも等しく価値はあるし、利潤を目的としたフォントがフリーフォントより感謝されなくても構わない、なんてことは絶対にない。仕事は尊重するもんだ。

フォント制作だけを特別扱いしない言い方にできないか

あまりフォントの特殊性を強調せずに、普通に言うことが一番の気がしてる。フォントプログラムだけでなく、ものは全て大事にすべきで、仕事は無償だろうと有償だろうと尊重したほうが望ましい、というくらいに。
フォントを作る仕事がある、人が労働して作ってます、その中身はこういったもので……ということを話すために、たとえば日本語のフォントの場合はこれくらいの文字数が必要で……という言い方なら、あるべきだと思う。でも「善意で公開している無料のフォントだから」という言い方は、あんまり必要がない気がしてる。なんか、「ユーザさんはフリーフォント作者に感謝するのが義務だ」、みたいなふうに聞こえてしまうのも、私には抵抗がある。



結局まとまんなくて、このまんま続けてもまとまりそうにないんで、このへんで。

*1:Narrなんて相手にしてねーよ、というのであっても、それでも